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「攻めの農業」とは、補助金ジャブジャブにして安売り攻勢をしかけること



TPP交渉に絡んでなのか、農業政策に関する話題が盛り上がっております。まあ議論するのはいいのですが、正しいようで正しくない議論が蔓延しているのが、ちょっと問題のような気がします。

「日本は農業を保護しているからダメなんだ」とか、「補助金に頼らない強い農業を目指すべきだ」とか。

日本の農業政策や貿易交渉に関しての議論が、どうにもかみあっていないような印象を受けるのは、根本的な部分での誤解があるからなんでしょう。事実を認識した上で議論を積み上げていかないことには、いくら議論したってまともな結論にたどり着けるはずもありませんし。


日本は関税で輸入品をブロックして、農産物の値下がりを防いでいる


農業の保護具合を知るのに良く使われる、OECDが発表しているPSE(Producer Support Estimate 生産者支持推定量)という指標があります。PSEの定義は

 PSE=内外価格差×生産量+財政支持額

内外価格差というのは、たとえばコメの関税などが高くて海外から輸入品が入ってこない場合に生まれる価格差のこと。日本の「農業保護」のおよそ8~9割が、関税などによる価格維持だとされます。
「補助金漬け」はウソ、関税頼みが大問題:日経ビジネスオンライン

たとえば、海外では米が1000円で売られているが、完全が高くて日本に入ってこない、とします。日本人は安い輸入品の米を買えないので、仕方なく2000 円の国産米を買っていると見なされる。すると、この「内外価格差」の1000円分が、PSEの一部にカウントされるわけです。

だから日本に関して言えば、別に国が農家に直接補助金をばらまいているのとは若干違います。関税でブロックされてるから、日本の消費者は安い輸入品を買えなくて損してる、というなら正しいのかもしれません。

さらに、このPSE総額を国全体の農家の収入で割った値、「農家の収入に占めるPSE」(%PSE)などが格好の農業保護の比較に使われたりします。
Producer Support Estimate by country, 1995-97 and 2009-11 Per cent of gross farm receipts
OECD生産者支持推定量

この%PSEで見ると、日本はノルウェーやスイスに次いで高い保護率となっています。韓国やアイスランドもほぼ同じ水準。

逆にEU(European Union)加盟国やアメリカ合衆国(United States)などは、関税や輸出補助金による農業保護をそれほどやっていないとも言えます。

さらに年度別のPSE比を見ると、アメリカやEUなどは関税や輸出補助金を削減しているであろうことが読み取れます。では、アメリカやEUは農業を保護せずにやっているのか? といえば、そうでもありません。


生産者支持評価額対農業粗生産額
図録▽農業保護の国際比較(PSEベース)

アメリカは直接支払い(戸別補償)で農家の赤字を補填している


アメリカの農産物(とうもろこし、麦、大豆、米、綿花)の生産コストの推移を見ると、ほとんどの年で生産コストが販売額を上回ってしまっています。つまり、作れば作るほど「赤字」になるということです。

たとえば2001年の米()の生産コストは、販売額の200%。これは100ドルで売る米を作るために、200ドルの生産コストがかかっているということ。同じ年の小麦()もだいたい同じ水準。普通なら、とっくの昔にアメリカの農家は壊滅しているレベルの大赤字です。
[PDF] アメリカにおける経営安定政策の展開と政府支払い
アメリカ販売価格に対する生産費の割合


そんなアメリカ農業がなぜ壊滅せずに済んでいるか、といえば、アメリカ政府が補助金投入して赤字補填しているからです。以下のグラフは、アメリカ農家の収入のうち、政府からの支払いが占める割合。

2001年-2002年のコメ()だと、手取り価格の50%以上が政府からの支払い(補助金)となっています。収入の半分が政府からの補助金ですから、アメリカの農業こそまさに「補助金漬け」なわけですね。

もちろん農産物の収穫量や価格、生産コストなどは変動しますので、50%が補助金という状態が毎年続いているわけでもありませんが。それでもほぼ毎年赤字を出して、政府から赤字補填を受けている、というのがアメリカの農業です。


アメリカ農家手取価格に占める政府支払いの割合


EUも直接支払いを増やしているので、農業保護の総額は減っていない


さて、WTOにも農業保護を図る指標とされるAMS(Aggregate Measurement of Support)というものがあります。その定義⇒AMS(助成合計量) とは - コトバンク

以下のグラフはEUの数値ですが、アンバーボックスの部分がAMSで、WTOのルールで削減が求められることになります。グリーンボックスは(デカップリングされた)直接支払い。ブルーボックスも直接支払いですが、貿易交渉では障壁と見なされアンバーに近いものとして扱われます(カップリング)。
デカップリング とは - コトバンク

このグラフで一目瞭然ですが、EUはアンバー(関税・輸出補助金)やブルー部分を減らすかわりに、グリーン部分(直接支払い)を増やしています。そのためトータルで見ると、EUは農業保護の総額をほとんど減らしていません。

関税や輸出補助金など(アンバーボックス)を減らすと、海外の安い農産物に引きづられて価格が下がり、EUの農家の赤字が拡大してしまいます。そうすると赤字補填のための直接支払い(グリーンボックス)は自然と増えていく、という仕組みになっています。


EU_WTO_domestic_support_notifications.gif
Latest EU AMS notification confirms declining trend in WTO amber box support


さて、農業所得に対する直接支払いの割合で見ると、EU全体では農業所得のうち78%は直接支払いになっているようです。ヨーロッパの農業大国と評判のフランスでも、農業所得の90%が政府からの直接支払いだとか。
農林水産省/トピックス 戸別所得補償モデル対策の実施

EUの農業は関税で保護されないかわり、政府からの直接支払い頼みで補助金漬けである、とも言えます。

日本アメリカフランスイギリス
農業所得に占める直接支払いの割合
(2006年)
15.6%26.4%90.2%95.2%
所得補償制度 - ファーマータナカのデイリーリポート (農水省調べ「エコノミスト2008年7月22日号」) 


「守りの農業保護」か「攻めの農業保護」かの違い


以上まとめますと
  • 日本は高関税で輸入品をブロックして、農産物価格の下落を防ぐことで農業を保護している
  • EUやアメリカは価格維持はしないかわり、価格下落で赤字になった分を補助金で補填して農業を保護している

アメリカだってEUだって、やり方は違えど農業を保護しているわけですから、「農業保護しているから、日本の農業はダメなんだ」というのは問題の核心からはずれてる。「農業保護の仕方が間違っているから、日本の農業はダメなんだ」、と言うなら正しいのでしょうけど。

日本の農業保護は、高い関税だったり、あるいは減反政策で生産を縮小し、供給を減らして価格を維持する方法です。「守りの農業保護」とでも言いますか。結果的には農業生産は縮小し続け、耕作放棄地も増えることになりましたが。

アメリカやEUも昔は減反をやっていたようですが、最近やっている農業保護策は、「赤字が出ても、直接支払いで補填してやる」と言って、逆にどんどん作らせること。

いくらでも赤字補填してもらえるので、海外の安い農産物が入ってきたとしても、どこまででも値下げして対抗できるわけです。

補助金ジャブジャブで安い農産物をあふれさせることによって、輸入農産物を締め出すことにもなります。その結果が、アメリカやEUの自給率向上にもつながっています。これを「攻めの農業保護」とか、「積極的農業保護政策」とでもしておきます。

一方でこれには赤字補填のために財政負担が増える、という問題もあります。そのかわりに消費者には安くなった国産農産物が手に入り、税金投入の見返りとしてはそれなりのメリットにもなりますが。いっそ「農業の半国営化」とでも言った方が、イメージはつかみやすいかもしれません。

しかしながら、「日本の農業は補助金漬けだからダメ」論が蔓延していると、EUやアメリカのような直接支払いによる赤字補填もダメということになり、補助金ジャブジャブによる攻めの農業(保護)もできなくなってしまいます。

関税による保護もダメ、補助金もダメ、生産性向上だけで何とかしようと言っていては、本当に日本の農業が滅ぶのを待つしかなくなるかもしれません。あの広大な農地を持つアメリカですら、補助金なしでは赤字なのですから。アメリカやEUが補助金漬けの農業保護でやっている以上は、日本も対抗せざるを得ないでしょう。

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タグ : 農業 アメリカ EU TPP FTA 

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